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風を変えるシリーズ 〜「未病」と健康づくり:東洋の知恵を現代医療へ〜
2025.05.28Dr.ブログ
「未病」と健康づくり:東洋の知恵を現代医療へ
「健康づくり」という言葉や考え方は、実は近年になって注目されるようになったもので、少なくとも西洋医学の歴史の中ではあまり見られなかったものです。これまでは、病気を治すことや、病気にかからないようにする予防法を必死で探していました。
しかし、最近は医学の進歩や、生活習慣病の増加、高齢化の進行、医療費の増加といった背景がある中で、「健康づくり」がとても大切だと考えられるようになりました。その目標は、病気の治療や予防だけではなく、現状の健康状態をさらに良くする「ポジティブヘルス」まで含まれています。
ただし、こうした「健康づくり」の考え方は決して新しいものではありません。実は、東洋医学の中には昔から似たような考え方がありました。例えば、中国やインドの伝統医学では、不老長寿を目指す養生法や、病気を未然に防ぐ方法が古くから存在していました。中でも「未病」という概念は注目すべきものと思います。「未病」とは、文字通り「まだ病気になっていない状態」を意味する言葉ですが、「健康とは言えない状態」をも表現するものです。
言わば、黒でもない白でもない状態(世界)があることを示しています。これに対し、現代医学では診断技術が発展すればするほど、「黒か白か」の考え方に陥りがちで、ヒトの健康状態を統合的に捉えることが困難です。実際、肩こり、頭痛、腰痛、疲労感を訴える方はとても多いのですが、医学検査ではその多くが正常で、「不定愁訴」と診断されているのが現状です。
しかも、その症状を無くすことは現代医学はとても苦手で、古くからある東洋医学、伝統医学が主役を担っているのが偽らざる現実です。それでも、この「不定愁訴」は本人が自覚できているだけでまだましで、自覚症状がない場合の「健康ではない状態」(不調)をキャッチすることはお手上げです。もちろん、東洋医学でも十分ではありませんが、少なくともそのような状態がヒトには存在することを「未病」概念で示していること、それを種々の方法でキャッチして客観化しようとして来た努力と成果は脱帽すべきことです。
この「未病」という概念が、最も古い漢方医学の書物である「黄帝内経素問」や鍼灸の古典「難経」にもすでに登場しているということは、驚くべき東洋の知恵だと思います。