BOOCSブログ
あなたという奇跡の物語
2026.02.10ブックスサイエンス
私たちの体は、驚くほど精巧な「細胞」という基本ユニットでできています。この細胞一つをとっても、中にはさらに核やミトコンドリアといった小さな器官(細胞小器官)がぎっしり詰まっていて、まるで小さな宇宙のようです。これらの小器官は、タンパク質や核酸といった生命を支える大切な分子から作られています。
私たちの命も、最初はたった一つの受精卵でした。そこから細胞が、どんどん分裂(卵割)を繰り返し、やがて約37兆個もの細胞を持つ私たちへと成長します。この命の誕生と、ふしぎな成長のプロセスを研究するのが「発生生物学」です。
以前、海辺の実験所で、ウニの初期発生を観察したことがあります。ムラサキウニの卵と精子を受精させ、顕微鏡でじっと見つめていると、時間がゆったりと流れるような不思議な感覚に包まれました。受精から一日も経たないうちに、「胞胚(ほうはい)」と呼ばれる初期の胚が、まるでUFOのように、産毛(うぶげ)のような繊毛(せんもう)を使って、海水中を幻想的に泳ぎ出すのです。
この小さな命の誕生を目にすると、海という厳しい自然の中で、これから育っていくウニの赤ちゃんたちに、なんとも言えないいとおしさを感じます。生命が生まれる瞬間の、厳かで感動的な事実に、胸が熱くなります。
この命の始まりの奇跡は、私たち人間にも当てはまります。
私たちが生まれる瞬間、お父さんから送り出された約3億もの精子が、お母さんの体内のたった一つの卵子を目指して、猛スピードで泳ぎ続けます。この過酷なレースで、卵子の近くまでたどり着けるのは、わずか100個程度だと言われています。
さらに、その100個の精子たちが協力し合って、卵子の表面を突破し、最後にたった1個の精子だけが、卵子の中へ招き入れられます。もし、この精子が少しでも遅れていたら、もし別の精子が卵子に入っていたら・・・。今の「あなた」という存在は、この世界にいなかったことになります。
つまり、あなたがこの世界に生まれてきた確率は、この3億分の1という、想像を絶する競争率を突破した奇跡の存在なのです!東大入試の倍率どころではありません。精子の側から見れば、3億倍以上の競争率を突破して、見事「人間存在大学」に合格した、と言えるでしょう。
あなたの存在は、レースで残された2億9千9百万以上の兄弟姉妹たちの想いをも託されて、この地球上に生み出されています。私たちは、自分がどれほどの奇跡を乗り越えてここにいるのか、普段の生活の中で意識することなく日々の小さな出来事に追われ、この「命の厳粛な事実」を忘れがちです。ですが、私たち一人ひとりが、この途方もないレースを突破したし存在だということを、時々思い出してください。あなたという存在こそが、何ものにも代えがたい、尊い奇跡の証なのです。
ブックスサイエンス理事
川端國文
