BOOCSブログ
佐藤愛子さんと認知症の予防
2017.04.05脳疲労と認知症
佐藤愛子さんの「90歳。何がめでたい」を読んで、中身も面白いが、本の終わりにある「おしまいの言葉」に精神科医として興味を惹かれました。 内容を少し紹介させていただくと、88歳の時に最後の長編小説「晩鐘」を書きあげて、この後はのんびりと老後を過ごそうと決め、のんびりの生活を始めると、起きて別にすることもなく気力も失せてきた。さらに訪ねてくる人も絶え誰とも会わず、電話もかからず口も利かずという日が珍しくなくなってきた。 そうしているうちにだんだん気が滅入ってきて、ご飯を食べるのも面倒くさくなり、たまに娘や孫が顔を出してもしゃべる気がなくなり、ウツウツとして「老人性うつ病」とはこれだなと思いながら、ムッと座っていた日々が続いた。そんな時に、ある週刊誌からエッセイ連載の依頼があった。毎週は無理だから、隔週という条件で引き受け、エッセイの隔週連載が始まって何週間か過ぎたある日、錆び付いていた脳細胞はいくらか動き始め、気が付いたら老人性うつ病から抜け出ていた。 「のんびりしよう」なんて考えてはダメだということが90歳を過ぎてよく解った。
この佐藤さんの「おしまいの言葉」には、老人性うつ病や認知症の予防についての深い示唆が含まれているように思います。
佐藤さんに、ある週刊誌からの執筆依頼がなく、そのままムッと座り続けていれば、うつ病が進行し認知機能も低下した可能性があります。うつ病や認知症は、原因もなく脳細胞が変調や萎縮をきたすことで起きる単純な生物学的な病気ではありません。精神医学では「生物―心理―社会」モデルで心の病気を理解します。 環境が心の持ち方に影響を与え、心の持ち方が脳細胞に影響を与えるのです。
佐藤愛子さんの例は、高齢者のうつ病や認知症の予防に 最も重要なのが、「日々、目的を持って生活すること」を示しているように思えます。
文献:佐藤愛子、90歳何がめでたい。小学館。2016より
神戸大学名誉教授
医学博士(精神科医)
新 福 尚 隆
現在、ブックスクリニック東京・福岡
(もの忘れ・脳疲労)外来担当