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認知症は遺伝するか

2018.07.21脳疲労と認知症

クリニックに来られる患者さんの中に、自分の父母、祖父母が認知症なので自分にも遺伝するのではないかと心配して相談に来られる方がおられます。認知症は遺伝性疾患ではありません。糖尿病やアルコール依存症が遺伝性疾患でないのと同じです。しかし、糖尿病、アルコール依存症、認知症にはそれぞれの病気になり易い素因を持っておられる方々がおられるのも事実です。

遺伝的な素因の形成には、人類の長い進化過程と関係があります。現在のように、長生きし食料に不足しなくなったのは、人類の歴史の中ではほんの最近のことです。食料が乏しいとき、少量の食物で生命を維持するための節約遺伝子を発達させた人々は飽食の時代で糖尿病になり易いという危険因子を持つことになりました。また、アルコールに関してもお酒に強い人と弱い人がいます。これには遺伝因子が関係しています。お酒に強い遺伝因子を持つ人の割合は、体をアルコールで温める必要があった寒い国の民族に高いようです。お酒に強い遺伝子を持つ人は、お酒を飲む機会が多くなりアルコール依存症になる確率は高くなります。

認知症と遺伝子の関係では、脂質代謝やコレステロール代謝に重要な役割を果たしているアポリポ蛋白E(APOE)との関係が明らかにされています。APOEは299個のアミノ酸からなる蛋白ですが、アミノ酸配列の違いによりAPOE-2,APOE-3,APOE-4の3種類があります。高齢発症のアルツハイマー病においてAPOE-4を持つ人の頻度が有意に高いことが報告されています。

APOE-4の遺伝子型は3つの中で最も進化初期の遺伝子系で、すべての古代人はAPOE-4の複製を持っていました。APOE-3と言う遺伝子型は、20万年前に人類が狩猟中心の社会から農耕中心の社会に変化した頃から出現し、現在では最も多い遺伝子型です。狩猟時代の人は、60歳以上生きることは殆ど期待をしなかったでしょう。高炭水化物食を摂るようになりAPOE-3,APOE-2型が増え、日本ではAPOE-4遺伝子型を持つ人口は一割にも達しません。最も古い遺伝子型であるAPOE-4を持つ人が、それ以外の遺伝子系の人に比べて高齢になると認知症になる危険性が高いという事実に、人類進化の不思議を感じます。

APOEは、コレステロール輸送、リポ蛋白代謝、脂質代謝、免疫調節、低濃度リポ蛋白の排出等に関与しています。このことは、認知症が蛋白代謝、脂質代謝、免疫機能と深い関係があることを教えてくれます。認知症と遺伝に関しては、親や祖父母が認知症であるので自分もそうなるのでは、と心配される必要はありません。糖尿病がそうであるように、適切な運動、健康的な食事、睡眠、目的を持った生活等、日々の生活習慣の積み重ねで認知症も十分予防可能なのです。

文献:「アポリポ蛋白Eと精神神経疾患」 武田雅俊他
精神神経学雑誌 第113巻第8号(2011) 

ブックスクリニック東京・福岡
(もの忘れ外来・脳疲労外来)を担当
新 福 尚 隆