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フランス政府と認知症薬

2018.08.03脳疲労と認知症

日本では、2018年7月の時点で使用が許可されている認知症の薬は、ドネぺジル(商品名:アリセプト)、ガランタミン(商品名:レミニール)、リバスチグミン(商品名:リバスタッチ)などのコリンエステラーゼ阻害剤と、メマンチン(商品名:メマリー)のグルタミン酸受容体阻害剤の合計4種類です。

6月24日の新聞に、日本で使われている4種類の認知症薬が、フランスでは今年8月から医療保険の適応対象から除外されることになったとの記事がありました。理由は(費用対効果が悪い)からではなく、薬としての本質に関わる(臨床的有用性に乏しい)とのことです。さらに、高齢者に対する安全性の問題も無視できないと指摘されています。今後フランスで、これらの認知症薬の投与を受けたい場合は、全額が利用者の負担になります。また、イギリス・オーストラリアでも抗認知症薬は、費用対効果が悪いので保険償還リストに含まないとの評価がなされているようです。

もともと、これらの薬の効能は、アルツハイマー型認知症の症状の進行を最大8カ月程度遅らせるだけであり、認知症を治療する薬ではありません。薬は、各国で実施された臨床試験をもとに認可され保険適応になります。日本での臨床試験の結果を調べてみて興味深いことが解りました。対象とされたのは、認知症と診断された50歳以上の、簡易知能検査(MMSE, Mini mental state examination)が1-12点の重度のアルツハイマー病の外来患者さんでした。24週後に、認知機能の低下の度合い、臨床医の印象に基づく改善度の指標等を用いて評価し 認知症薬を投与したグループの改善率がプラセボ(偽薬)投与群に比べて高かったとの結果が報告されていますが大きな差ではありませんでした。また、24週後はどうなったかの評価はなされていません。有害事象(副作用)に関しては、(嘔吐・下痢・便秘・食欲不振・発熱・落ち着きのなさ・転倒・挫傷・擦過傷)などの項目で、偽薬に比べて実薬(ドネペジル)を投与された群が明らかに高い値を示しています。

私がクリニックで診察する認知症の患者さんは、軽度認知障害(Mild cognitive Impairment MCI)、軽度アルツハイマー病と診断されるMMSEが20点以上の方が多く、先述のドネペジルの臨床試験が対象としたMMSEが1-12点の重度の認知症の方は殆どおられません。また、MCIにはドネペジルは効果がないことを示す複数の研究報告があります。重症の患者さんに有効な薬が軽症の人にも適切かどうかは疑問があります。認知症には薬よりも心と体のケアが効果的です。

一方、日本では、85歳以上の高齢者の17%が抗認知症薬の処方を受けているという驚くべき報告もあります。私は、抗認知症薬の処方は控えめにすべきだと思います。認知症の進行を予防するためには、薬よりも目的を持った日々の生活、いわゆるキョウイクとキョウヨウ(今日行くところ、今日する用事)が大切です。生活習慣の改善、運動、バランスの取れた食事、十分な睡眠が必要なことは言うまでもありません。

参考文献:(1) 認知症薬、仏が保険適応除外, 朝日新聞 2018.6.24 
     (2) 五十嵐中, 認知症治療薬 「保険外し」で決着したフランス, 医薬経済2018.7.1

ブックスクリニック東京・福岡
(もの忘れ・脳疲労外来)外来を担当

新 福 尚 隆