BOOCSブログ

認知症の告知

2018.09.07脳疲労と認知症

私が医学生のころは、癌の告知については、決して患者に癌だと告知してはいけないと教えられました。今では、癌の告知は当たり前になっています。医療の世界で大きな転換が起きました。

「癌より怖い認知症」という言葉があります。物忘れが気になり医療機関を受診し、検査をしたら「脳に萎縮が認められます。認知症です。薬で進行を遅らせることはできますが回復は不可能です。治療法はありません」と言われたとの事で、当クリニックを受診される患者さんがおられます。患者さんは、認知症と言われ、がっくりして抑うつ状態になっています。認知症の告知について、医療者に十分な教育がなされてないことに気づかされます。

私は、物忘れで認知症ではないかと心配される方には次のように話します。主観的に物忘れが気になる方(SCI)、軽い物忘れが周囲の人からも認められる(MCI)のレベルの方です。SCI・MCIは病気でなく状態です。今までのブログで私の考えを紹介しましたが、認知症の大部分は、生活習慣病と同じく予防可能です。

例えば、血中コレステロールが高い人が、すべて動脈硬化を起こして心筋梗塞や脳梗塞になるわけではありません。血糖が高い人が、すべて糖尿病を起こし失明するわけでもありません。これらの病気は、一方的に進行する病気ではありません。早期に高コレステロール血症や、高血糖を発見して生活習慣に注意を払うことで心筋梗塞や糖尿病は予防できます。認知症も同じです。高齢になると誰でも脳細胞の脱落・萎縮が起こり、物忘れをするようになります。脳の萎縮が認められたと言われてがっかりする必要はありません。頭を働かせることで、前頭葉や、記憶をつかさどる海馬の神経細胞も再生することができます。脳の神経細胞の新生は一生を通して起きていることが、最新の論文で報告されています。

SCIやMCIの方に対しての告知は「認知症は一方的に進行する病気ではないこと。認知症は予防可能であること。生活習慣が病気の進行に大きな影響を与えること」を説明して、希望をもって頂くことが基本だと考えています。「治療法はありません」と言うのは、間違っています。

また、多くの患者さんが早期診断を受け、認知症の進行を遅らせるのに必要ですといわれ、抗認知症薬を処方されています。しかし、薬で認知症を治すことはできません。また、服薬することで、自分は認知症だと思い込み、そのことで不安になり抑うつ的になることがあります。これこそ、認知機能を悪化させる最大の原因です。認知機能を健全に保つことができるのは、患者さん自身です。バランスの取れた食事、運動、人との交流を通して脳を刺激することで認知症は予防できます。サプリメントも効果的です。

文献:Boldrini M , et al: Human Hippocampal Neurogenesis Persists throughout Aging.Cell Stem Cell. 2018 Apr 5;22(4):589-599.e5.

用語:主観的認知機能障害(subjective cognitive impairment:SCI)
   軽度認知障害 (minor cognitive impairment :MCI)

ブックスクリニック東京・福岡
(もの忘れ・脳疲労外来)外来を担当

新 福 尚 隆