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ストレスと認知症

2019.01.17脳疲労と認知症

高齢者の認知機能にとってストレスは、良いのでしょうか、悪いのでしょうか。

ストレスはマイナスのイメージで捉えられることが多い様ですが、外界からの刺激という 広い意味で捉えれば毎日の生活にストレスは必要です。ストレスに関して「Spice of life 人生の薬味」、「Kiss of death 死の接吻」と言う言葉が有ります。

ストレスは、「人生の薬味」です。適度の変化と刺激は人生に必要です。ストレスがない生活を送ると、脳への刺激がなくなり、認知症が進行します。筋肉を使わないとあっという間に筋肉が衰えるように脳細胞も使わないと衰えます。ストレスがないことは逆説的ですが、「悪いストレス(Distress)」です。

以前のブログで、「なりゆき認知症」と言う言葉を紹介しましたが、友人もなく、趣味もなく、刺激のない生活は要注意です。社会的孤立は認知症の危険因子だということが明らかにされています。適度のストレスは、良いストレス(Eustress) で高齢者が、呆けずに生き生きとした生活を送るためには必要です。家族、友人との楽しい交流は 認知症を予防します。一方、過度のストレスは「死の接吻」ともいうべき「悪いストレス(Distress)です。多忙、不安、対人関係の緊張などのストレス状態が続くと心身の健康を損ないます。アメリカのレーガン元大統領、イギリスのサッチャー元首相なども認知症を患っておられますが、政治家としてのストレスが原因でないかと私は考えています(個人的な見解です)。また、中小企業の経営者のかたで、すごく頑張ってこられた方をクリニックで診察することがあります。経営者としての長年のストレスの蓄積が、慢性の脳疲労、うつ病、認知症を発症させた様に思えます。

私は、神戸大学医学部に勤務していた1995年1月に阪神淡路大震災に遭遇し、ストレスが被災者の心身に大きな影響を与えることを身に染みて体験しました。災害直後には不安、不眠、緊張、血圧の上昇、急性のストレス潰瘍など心身にわたる様々な障害が起きます。数週間後には、身近な人や、家屋、財産の喪失に伴う抑うつ反応、震災時の恐怖体験がよみがえる外傷後ストレス障害等の症状が見られました。ストレスから立ち直れない被災者のなかには、うつ病、アルコール依存症になったかたもおられます。避難所、仮設住宅への移動の結果、見当識を障害し認知機能が急速に悪化したと思える高齢者は少なくありません。震災の被害者のストレスは、悪いストレスの代表です。

私の診察においても、入院が転機になり認知機能が急速に悪化したと思える高齢者が少なくありません。入院は大きなストレスです。高齢者は、過度なストレスを避ける一方で、家族や友人との交流、運動、趣味、音楽などの楽しいストレスを持ち、メリハリのある毎日を送ることが認知症の最大の予防です。

 

参考:新福尚隆、地震災害被災者に関する医学的総合研究、神戸大学特定研究報告 1998 年

 

ブックスクリニック東京・福岡

(もの忘れ外来・脳疲労外来)を担当

新 福 尚 隆