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プラズマローゲン物語 (10) (11)を掲載しました。

2021.08.10プラズマローゲン物語

プラズマローゲン物語(10) フィンランドパラドックスはなぜ起こったか?

藤野武彦が「脳疲労」概念を提唱しBOOCS法を考案していたころ、フィンランドで行われた調査研究が、「フィンランド症候群」として世界的に話題になった。


この調査はヘルシンキ大学とフィンランド労働衛生研究所が心臓疾患への予防介入を目的としたもので、1974年から1992年にわたって行われた。対象となったのは40歳から55歳まで(平均48歳)の男性会社役員で、冠危険因子を持つがまだ発症していない1222人。そのうち621人の「介入群」には5年間、定期的な健康診断をして禁酒・禁煙などの指導をし、必要に応じて高脂血症や高血圧の薬を投与した。一方の別の610人は「非介入群」として、様子を見るだけにした。


そして18年後の1992年に、冠動脈心疾患による死亡者数を調べると、介入群が612人中39人で、非介入群の610人中19人より多かった。死因に関係なく全死亡者数も、介入群の95人に対して非介入群の死亡者は65人で介入群が多いという「意外な」結果がでた。
ヘルシンキ大学の研究者たちは、この意外な結果の理由がわからず、「信じられない」「訳が分からない」を論文中で繰り返している。「フィンランド症候群」「フィンランド・パラドックス」と名付けて話題になった。世界的に有名な文化人の中にも「禁酒・禁煙をするとかえって寿命を縮める」とさえ発言をする者もいた。


この「フィンランド・パラドックス」について医学会は、「①介入して用いた様々な薬剤が悪い影響を及ぼした②生活習慣を制限されるストレス、定期的な健康診断などによるストレスなど、いわゆるプラシーボ効果がマイナス方向に出た」の2つを指摘して議論したが、医学会では特に①の意見が多かった。もちろんこの調査では、ストレスや生活態度、個人の生き方に関する調査は介入群、非介入群ともにいっさい行われていない。


このとき「脳疲労」概念を提唱していた藤野は、当然②のストレス説を支持した。ヘルシンキの研究グループが用いた指導法は、カロリー制限、禁煙、飲酒制限、運動療法などイソップ童話「北風と太陽」でいえば、「北風」的手法だったからだ。それらは強制すれば、要するに脳にとってはストレスの原因になりかねないものばかりだ。「フィンランド・パラドックス」は藤野の「太陽」的手法であるBOOCS法で死亡率が半減した疫学的根拠を裏付ける研究調査だということもできるのである。

プラズマローゲン物語(11) レオロジー機能食品研究所で医食同源を科学する

九州大学健康科学センター助教授の藤野武彦が自ら考案したBOOCS法の普及と実践に努めていた1990年代半ば、農林水産省から産官学共同で研究所をつくらないかという話が持ちかけられてきた。


当時農水省は、食べ物は生活を維持する単なる栄養物としてだけでなく、食物から種々の機能性物質を抽出して機能性食品化して、我が国の農産業の発展を推進しようという施策を打ち出していた。例えばアーモンドから血液をサラサラにする成分を抽出して製品化すれば、脳梗塞や心臓病の予防になり国民の健康促進のためになる。そのため、最新技術を用いて新しい機能性物質を作り出す産官学連携による独立行政法人農業食品産業技術総合研究機構を設立し、各地に独立行政法人の研究所の設立を急いでいた。「医食同源」という言葉がはやったのもこのころである。


九州地区で藤野に白羽の矢が立ったのは、彼の「血液のレオロジー(血液のサラサラ度)」の研究が評価されたからである。当時藤野は、九州大学健康科学センターで脳と心臓の相関関係に関する研究など、もっぱら学際的な総合医学の研究に専念していたが、一方で心臓や血液に関する研究もおろそかにしていなかった。


藤野が研究していた「レオロジー」とは、単なる血液をサラサラにするものではない。レオロジーとは赤血球の「粘弾性」のことである。酸素を体中の各細胞に運ぶ赤血球の直径は7ミクロン(1ミクロンは1ミリの1000分の1)だが、末梢の毛細血管の直径は5ミクロン、正常な形では赤血球は毛細血管を通れない。そこで赤血球はつぶれる形で変形する。このように変形することをレオロジー、粘弾性という。この粘弾性が欠けると、毛細血管が詰まり脳梗塞やいろいろな病気を引き起こす。


血液同士の凝固を防いで血液をサラサラにする薬物はすでにあった。だが赤血球自体の粘弾性の研究はあまり進んでいなかった。血液自体がサラサラになっても、赤血球1個が毛細血管で詰まってしまえばお話にならない。脳梗塞を防ぐには、血液サラサラ薬とレオロジーの両方が不可欠になってくる。そこで農水省は藤野の研究に目をつけたのである。


そうして1995年、福岡県糟屋郡久山町に農水省と民間企業の共同出資で独立行政法人レオロジー機能食品研究所が設立された。当時九州大学健康科学センターに所属する藤野はそこの研究部門の責任者になり、機能性食品の研究開発をプロデュースした。政府からは10億1000万円の補助金があった。


農水省からは「奇想天外なものでいいから、30年先に役立つものを作ってほしい」と言われた。しかし藤野は、すぐに役に立つ食品の開発もおこたらなかった。例えば「麹発酵純黒茶」がそうである。これは茶葉を独特の方法で発酵させることで新規成分「黒茶ポリフェノール」を生成することに成功した。従来の緑茶には見られない成分として化学構造式化し、動物実験やヒトへの臨床試験で検証した。この新規成分ポリフェノールはメタボリック症候群に顕著な効果があるとして評価された。もちろん一方では、レオロジー(赤血球変形能)の検査法の開発も積極的に進めた。


やがて「役に立たない研究機関はつぶせ」と「小泉改革」で各地の独立行政法人農業食品産業技術総合研究所はバタバタとつぶされた。「30年先の研究」は反古にされたわけである。藤野のレオロジー機能食品研究所は実績があるので生き残った。ただし「いずれ民営化してほしい」という注文がついた。


こうして2002年、独立行政法人レオロジー機能食品研究所は、国の株式を買い取り株式会社レオロジー機能食品研究所として民営化した。九州大学を退職したばかりの藤野武彦は所長として就任した。のちに、このレオロジー機能食品研究所が、プラズマローゲン開発を牽引していくことになる。