BOOCSブログ
プラズマローゲン物語 (28) (29)を掲載しました。
2021.10.11プラズマローゲン物語
プラズマローゲン物語(28) 認知症の原因はストレス
そのアルツハイマー病自体も20世紀になって発見された病名で歴史は浅い。
名付け親はドイツの精神病学者のアロイス・アルツハイマー。精神疾患で死んだ中年女性の症状が、言語障害、記憶障害、予測不可能な行動など、これまで診た精神病患者とは違う。死後、その女性の脳を調べてみたらアミロイド斑や神経原線維がたくさん見られた。その女性は46歳で発症し56歳で死亡した。今でいうなら若年性認知症だった。そこでアルツハイマーは1906年にその女性の症例を学会で発表した。これがアルツハイマー病のはじまりだ。レビー小体病も同じドイツの精神病学者のレビーがその病名の由来である。もちろん、それ以前からアルツハイマー病もレビー小体型認知症も存在していたことは間違いないが、その病気の病理研究がなされて100年にしかならない。治療法についてはいまだ根治的な方法は見付かってはいない。
山田達夫は諸説あるなかで、アルツハイマー病の原因は。ストレスにあると考える。アルツハイマー病は脳の側頭葉内側にある海馬の萎縮にはじまり、それが全体に広がる病気である。うつ病患者のうつ期間が長くなると海馬の体積が減る。戦闘ストレスで海馬が小さくなることは、ベトナム戦争から帰還した米兵の海馬が小さくなっていることで証明されている。また小児期に虐待を受けた者も海馬が小さくなっている。その海馬の細胞を萎縮させる原因がストレスなのだ。
そのエビデンスは、ヒトがストレスを受けるとその情報が脳の下垂体に伝わり、下垂体が副腎皮質に「ステロイドホルモンを放出せよ」という伝達ホルモンを出す。伝達を受けた副腎皮質はステロイドホルモンを出す。その理由は、ストレスがかかると一時的に血糖値や血圧が下がるので、それを防ぐためにステロイドで高くするためだ。しかし放出しすぎると高血糖症や高血圧症を発症する。このステロイドの大量放出が過ぎると、同時に海馬の細胞も殺してしまうのだ。このステロイドホルモンの大量の放出は、超肥満体の原因となるクッシング症候群も引き起こす。そのクッシング症候群が海馬細胞の破壊という現象も生むのである。
だからベトナム戦争などの戦闘ストレスといった極端な例ではなくても、社会や家庭内での争いごと、心配ごと、不安感、さらに多忙、嫌なことや怒りなどのストレスの積み重ねがアルツハイマー病の原因となる。軽度認知障害の老人に「おばあちゃん、また 薬飲むの忘れたの。ここにちゃんと書いてあるでしょう」などと指摘や修正を要求すると、それがまたストレスになり海馬の細胞を殺し、さらに症状を悪化させることになる。認知症は人間関係のストレスからさらに悪化していく。根源的な治療はともかく、軽度認知障害の患者を本物の重度認知症に進行させない方法は確実にある、というのが山田の認知症に対する基本的な考え方である。
プラズマローゲン物語(29) 認知症の進行を防ぐには
長年認知症治療に携わってきた山田達夫は、認知症と軽度認知障害(MCI)を区別する的確な持論をもっている。それは「物忘れがあろうが、なかろうが、認知機能低下によって生活が自立できなければ認知症で、自立できていれば軽度認知障害だ」と言い切る。きわめて単純で明快な見分け方だ。
認知症の程度を測定する認知機能検査「MMSE」という検査方法があるが、一応の目安にすぎない。この検査法は1975年にアメリカで開発されたので、11項目の質問、合計30満点で構成され、見当識、記憶力、計算力、言語能力、図形的能力などをみる。30点満点のうち、24点以上なら正常、24点未満なら軽度認知障害、20点未満で中等度、10点未満なら重度認知症と診断する。しかし28点以下なら軽度認知障害とする医師もいれば、いや25点以下だとする医師もいて、この境界線もはっきりしない。山田は長年の経験から「何度も同じことをいう。探し物が多い。自分の物忘れをあまり自覚していない。しかし何となく病感はある」の3点があれば軽度認知障害と判断することにしている。アルツハイマー病の初期症状は、「時間の見当識」と「場所の見当識」の障害から来るが、それも場所より時間の方が早く来る。今日が何日か答えられなくても、何県に住んでいるか正確に答えられるケースが多い。歳を訊くと実際の歳より若く言う。それも2歳若く言うケースが多い。その2年間の記憶が消えてしまつているからだ。でもその程度の軽度認知障害なら自立した生活に支障はない。昔風にいえば歳のせいでボケてきた程度ですませられる。だがそのまま放っておくと、やがて妄想が現れたり、失語状態になり徘徊が始まり、人格が崩壊し、最後は寝たきり老人になってしまう。
現在、500万人の認知症患者がいるとすれば、それとほぼ同じ数の500万人の軽度認知障害者がいるとされている。この500万人のうち1年後には1割の50万人が本物の認知症に進行し、2年後にはさらに1割という具合に進行する。5年後に半数の250万人が本当の認知症になってしまう。山田はこの認知障害から認知症への移行をできるだけ防ぐことが認知症専門医の仕事だと思っている。
山田は認知症の人の心理状態を「自分の物忘れを過小評価し、率直に認知症を認められず、これまでできたことをできなくなると極度に孤独で不安になる。家族や社会で役割を失い、周囲から厄介者と特別視され、また家族などから叱られつづけて自己の尊厳を失っていく」と分析し、軽度認知障害や認知症の人を持つ家族に次のようにアドバイスをしている。
「家族の誤った対応が、さらに症状を悪化させていく。物の置忘れや薬の飲み忘れに対して家族は『しっかりして』と指摘する。しかしこれは絶対にやってはいけないことだ。家族にとっては『昔の元気だったころの母親に戻ってほしい』『ぼけてほしくない』という心理が働く。この指摘を繰り返していると、母親は『娘にいつも叱られている』ということが屈辱感、孤立感を促進していく。そしてやがて攻撃性を生み、けんかが絶えない状況になり、ときには家族の『介護うつ』を誘発することもある。極端な場合、やがて家庭の崩壊につながっていく。認知症は、本人の危機から家族の危機へ移行していくことがいちばん怖い」
認知症の進行を防ぐには、要するにこれと反対なことをやればよいのだ。まず患者の誤りを指摘したり修正させたりすることを絶対にしないことが必須条件だ。そして「孤独にしない」「役割を持たせる」「達成感を感じさせる共同作業をさせる」「できるだけ外に連れ出して、一緒に運動をする」の4点が必要条件になる。しかし家族だけで認知症患者を介護するのは無理だ。どうしても患者に昔の元気な頃に戻ってほしいために、誤りや失敗に対して指摘、修正をするのが人情である。認知症患者を自分たちで抱え込まないで、できるだけデイサービスやショートステイを利用して、積極的に介護士などのプロの力を借りることが望ましい。そう認知症専門医の山田は考えている。