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プラズマローゲン物語 (46) (47)を掲載しました。

2021.12.13プラズマローゲン物語

プラズマローゲン物語(46) 鶏肉からホタテ貝へ

2012年までの動物実験は鶏肉から抽出したプラズマローゲンを使用したが、その後、馬渡志郎がホタテ貝からより効力の強いプラズマローゲンを抽出・精製することに成功した。

プラズマローゲンとしては、人間も鶏やホタテ貝でも同じものだが、不飽和脂肪酸構成がかなり異なり、医学的効果にも差が出ることが分かってきた。馬渡はもともと二枚貝にプラズマローゲンが多いことに気が付いていた。さらに貝類の脂質にはスフィンゴミエリンや中性脂肪が少なく、抽出方法が鶏肉よりも非常に簡単になる。さらにホタテ貝のプラズマローゲンは貝柱ではなく、貝のひもの部分に多いことも分かっている。ひもの一部は加工されおつまみなどとして販売されるが、大部分は廃棄されることが多い。つまり安全で安く手に入る素材である。コスト上の問題もさりながら、ホタテ貝には構成成分にDHAという不飽和脂肪酸が豊富に含まれているというのが医学上の最大のメリットである。

それまでの鶏肉のプラズマローゲンにはアラキドン酸というリン脂質が多く含まれていたが、このアラキドン酸は分かりやすく言えば「闘いのホルモン」に必要な物質で、外敵から生体を守る働きをするが、その反応が過剰になると病気を引き起こす欠点も併せ持つ存在であった。

ところがホタテ由来プラズマローゲンに多く含まれるDHAは炎症を抑える作用をもっている。つまり「闘いのホルモン」とは逆の働きを持っている。ただ同じDHAでも、精製された遊離のDHAよりも、プラズマローゲンなどのリン脂質と結合したものの方が脳への取り込みが良く、作用の発現が早いことが分かっている。いわば「闘いのホルモン」に対して「和合のホルモン」といってもいい。しかし、だからと言って、ホタテ貝をたくさん食べたらプラズマローゲンを摂取できるかというと、そうはいかない。ホタテ貝そのものからプラズマローゲンを抽出する機構は人体の中にはないからだ。さらに臨床試験の結果からホタテ由来ブラズマローゲンの方が鶏肉由来プラズマローゲンより効果を発揮し始めるのが早く、通常の効果も大きいことが分かってきた。どうやらプラズマローゲンの中にDHAという不飽和脂肪酸が豊富にあるということに秘密がありそうだと馬渡は考えた。この事実には先行事例がある。東京慈恵医大の研究チームが、虚血性心臓病(狭心症や心筋梗塞)では血中プラズマローゲンの濃度が低く、またその血小板(血液凝集作用を持つ血液の中の成分)のプラズマローゲンの構成成分であるDHAが正常の血小板に比較して、顕著に低下していることを報告している。これらの報告と馬渡の研究結果を考え合わせるとDHAを多く含んだタイプのプラズマローゲンの重要性が明白になってきた。そしてプラズマローゲンが認知症のみに有効なだけではなく、今後心臓病など多くの患者に応用されることが予測されている。

いずれにしろ、ホタテ貝からプラズマローゲンの大量抽出に成功したことで、2014年以降の臨床試験はすべてホタテ由来プラズマローゲンを使用して行った。

プラズマローゲン物語(47) 福岡大学との共同研究

1995年にアメリカでアルツハイマー病患者の死後脳のプラズマローゲンが減少していることが報告され、さらに2007年にカナダでアルツハイマー病の患者の血清中のプラズマローゲンが減っているという報告がなされていた。しかしまだ日本では、それらのことが証明された症例はなかった。福岡大学とレオロジー機能食品研究所の共同研究は、2012年、まず手始めに日本人のアルツハイマー病患者の血液中でもプラズマローゲンの量が減少しているかどうか証明することから始めた。もちろん日本で初めてのプラズマローゲンに関する臨床試験であった。

試験は、福大病院のアルツハイマー病患者から採血した血液をレオロジー機能食品研究所の高速液体クロマトグラフィーにかけて分析するという方法が取られた。カナダの先行事例と違うのは、カナダの場合は血清中のプラズマローゲンの量だったが、この試験では赤血球の細胞膜のプラズマローゲンの量にこだわった点である。健常者(年齢適合対照群)の数値と比較すると明らかにアルツハイマー病患者の赤血球膜のプラズマローゲンの割合は低く、日本人のアルツハイマー病患者のプラズマローゲンが減少していることが明らかになった。

この臨床試験の結果は福岡大学神経内科のスタッフとレオロジー機能食品研究所の馬渡志郎らがまとめて医学ジャーナル「Dement Geriatr Cogn Disord Extra 2012.2:298-303」に「アルツハイマー病患者における赤血球膜リン脂質の変化」というタイトルで掲載された。この論文は「赤血球膜中のリン脂質の割合の変化は、酸化ストレスにより誘発された可能性があり、アルツハイマー病患者の末梢血中に強い酸化ストレスが存在していることを示唆している」と結んでいる。藤野武彦は自分なりの仮説を立てていた。もともと藤野はアルツハイマー病の発症はアミロイドβの沈着だけで説明することに疑問を持っていた。アミロイドβの沈着よりも、むしろプラズマローゲンの減少の方が、より上位の現象ではないかと考えていた。藤野の仮説は「認知症患者は『脳疲労』のため脳内のプラズマローゲンが減少している。したがって、内からも外からもプラズマローゲンを補強してやれば『脳疲労』を改善し、認知症も改善できる」というものだ。つまりアルツハイマー病などは「脳疲労」の結果の一部で、脳疲労こそが神経系統の病気だけでなく糖尿病や心臓病など生活習慣病の発症の原因というものだが、その突破口としてプラズマローゲンと認知症の関係だけに絞って研究をつづけていくことを考えていた。

とりあえず、アルツハイマー病患者の血中のプラズマローゲン濃度が低いということだけは確認できた。あとはプラズマローゲンを補充してやればどうなるか、研究をつづけていかねばならない。

そこで2013年、藤野たちは福大病院と共同で、アルツハイマー病患者40人に対して、プラズマローゲンを投与する臨床試験を始めることにした。プラズマローゲンと認知症の関係を究明する臨床試験は、もちろん世界で初めての試みだ。

 2013年に最初に行った臨床試験はシングルブラインド(単盲検試験)という方法で行った。この試験は、プラズマローゲンを毎日投与した群と、プラセボ(偽薬)を投与した群に分け、家族も含めて患者にはどちらが投与されたか判らないようにして行うものだ。参加した人数は40人で、10人にプラセボを、残り30人には、それぞれ1日のプラズマローゲンの量(1mg、5mg、10mg)を変えて投与し、各10人、計4群でMMSE(認知機能検査)の6か月後の変化を比較した。最もMMSEの得点が上がったのは低用量の1mg/日摂取群だった。初回のMMSE得点を100%とすると、6か月後の比較検査で1mg/日摂取群は12%(2・2点)上昇した。5mg/日、10mg/日摂取群には有意な変化は見られなかった。しかし最初の介入研究は対象数も少なかったことから、プラセボ群と実薬群との間に有意な差は見られず、明解な結果は得られなかった。しかし、高用量より低用量の1㎎/日摂取群にMMSEを上昇させる可能性が得られた。この結果から、後の研究では1mg/日が採用されることとなった。

この福岡大学での臨床試験は患者本人のMMSE比較だけでなく、プラセボ群と1㎎摂取群の介護者による客観的評価も行った。介護者評価とは、試験参加者の介護をしている家族に、「記憶」「見当識」「注意」「実行機能」「意識感情」の5項目をそれぞれ改善、不変、悪化で評価してもらい、その集計を取った。その結果、やはり1㎎/日摂取群は「改善」の評価が22・2%と高く、「悪化」は2・9%と非常に少なかった。項目別に見ると、「注意力」「実行機能」「意欲感情」の項目に顕著な改善がみられた。単にMMSEの得点だけでなく、実際に介護する家族の評価が高いということは、今後に向けての非常に有意義な臨床試験だといえた。