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プラズマローゲン物語 (62) (63)を掲載しました。

2022.02.07プラズマローゲン物語

プラズマローゲン物語(62) プライドを取り戻した74歳男性の話

2つ目の症例は74歳の男性で、10年前に交通事故に遭い脳出血を起こし、高次脳機能障害の治療を受けているうちにアルツハイマー病を発症したケースだった。

その患者は、関西地方からわざわざ福岡市の藤野武彦のクリニックを訪れた。「自分は物忘れの自覚はないが、家族からいつも注意されて・・・」ということなので、MMSEで調べると13点で重度の認知症だった。しかし、外見からは認知症とは分からず、ときどき不安そうな表情は見受けられるが、言葉使いもきちんとしている。だが同行して来た夫人に言わせると、薬の飲み忘れが多く、注意すると大声でわめき怒り出す。入浴後に部屋着でなく外出着を着ることなどの行為がひどい。ただ本人が一番落ち込んでいるのは、自慢の囲碁の腕前が6段から急激に初段に落ちたことだった。6段といえばアマ囲碁では最高位、それまで足しげく通っていた囲碁クラブからも足が遠のき、毎日落ち込んでいる状態だという。初診時はプラズマローゲンを飲んでもらい、本人には「今の腕前で囲碁を楽しんでください。そうすればまた強くなります。家族や周囲の方には、感謝の言葉を伝えてください」と助言し、夫人には「ご主人の物忘れを注意・批判せずに、寄り添ってあげてください。できるだけご自身だけの時間をつくり、自分を大切にしてください」と言って帰した。

初診から1か月後の再診で、MMSEが7点も上がり20点。わずか1か月で7点アップの成績にはクリニックのスタッフ一同も驚いていた。さらに驚いたことには囲碁の腕前が上昇したことだ。夫人は「前回の診察のときに藤野先生から、囲碁が再び強くなると言われたことがよほどうれしかったようです。帰りの電車の中で『また囲碁クラブに行くぞ。そして勝つぞ』と独り言を繰り返し言っていました。2週間ほど前から3段の人に何度も勝ったそうです。表情も穏やかになり、笑顔も増えました」。本人は横でうれしそうに笑っていた。2か月後の再診のときは、MMSEの点数は15点に低下していたが、本人の受け答えは前回よりしっかりしていた。本人は「6段から初段程度に落ちていましたが、今は5段程度かな。今週から囲碁のボランティアに行こうと思っています」と積極的な態度を見せていた。藤野は「囲碁は続けてください。勝負にこだわらず、囲碁を楽しんだほうがいいでしょう。奥さんもご自分の精神安定のために、今の仕事を続けてください」と言って帰した。

初診から3か月後の再診では、まさにV字型の回復を示した。MMSEは20点だったが、「先生お元気でしたか」と本人の方から声をかけてきた。藤野が「最近は囲碁の成績はどうですか」と訊くと、「4、5段には勝てます。今度、大きな大会に出ようと思っています」とうれしそうに答えた。夫人は「囲碁クラブに行っているととても楽しそうです。以前より本を読む時間が長くなりました」。本人は「今度、先生と一局対戦したいですね」と言って帰っていった。

おそらく囲碁クラブでは1、2位を争う実力の高段者が一挙に6段から初段に転落した辛さは、計り知れない。それに物忘れをしたり、異常な行動を注意され、急速にプライドが失墜した辛さが加わっては健常者でも立ち直るのに時間がかかる。それがわずか3か月で5段まで回復したというから、これほど知的能力の回復を証明するケースはなかった。囲碁に勝つということは、MMSEや医師の客観的な知能評価や家族の行動評価よりはるかに高次元の脳の働きを必用とする。単に記憶力が良くなった、異常行動をしなくなった、という部分的な機能を高めただけではなく、統合的な脳の機能の力が高まったということだ。このことは単なる回復ではなく、片渕俊彦がマウスの実験で証明した、プラズマローゲンの神経細胞の新生作用のためだと考えざるを得ない。

人間だれしも、ひとつくらいはプライドを持っているものだ。ましてや囲碁の高段者としてのプライドが失墜したときの落胆ぶりは想像できる。そのプライドをプラズマローゲンの「介助」のおかげで取り戻せた。それに従って他の機能も徐々に元に戻りつつある。MMSE20点といえば、昔ふうに言えば「ぼけ老人」の域を出ない。だがこれくらいの「ぼけ」はいずれだれにでもやってくる。それでも生活していく上で支障がなければ、MMSEなんてどうでもいいことだ。小中学校の成績表程度にすぎない。かつての囲碁の腕前を取り戻したことで、これからの人生、自信をもって生きていける。プラズマローゲンは、今さかんにいわれているQOL(生活の質)を高める役割を十分に果たせる力がある、と藤野は思っている。

プラズマローゲン物語(63) 患者の鏡になるということ

3番目のケースはレビー小体型認知症の50代の女性だが、彼女はすでに自分の闘病記録をまとめた「私の脳で起こったこと-レビー小体型認知症からの復活」(ブックマン社)を出版し、自分の病歴を公表し各地で講演活動行っているのであえて樋口直美の本名を使わせていただく。樋口の著書は日本医学ジャーナリスト協会賞優秀賞を受賞している。彼女とレビー小体型認知症の関係を詳しく知りたい方には一読をお勧めしたい。

樋口直美は30代から幻覚に悩まされ41歳のときにうつ病と誤診され、抗うつ剤の副作用で手が震えるなどの症状や、さまざまな体調不全で約6年間苦しんできた。幻覚も相変わらず治らない。他の病院で診察を受けたが、確たる病名は診断されないままだった。10年後にやっとレビー小体型認知症と診断されたが、体調不全の状態は相変わらず続いていたので、医師の紹介で藤野武彦のBOOCSクリニックを訪れた。彼女は3か月に1回、藤野の診察を受けていた。初診段階から現在までMMSEは30点の満点であったが、バイオマーカーで測定したプラズマローゲンの血中濃度は初期段階では明らかに低く、現在は正常である。初診時の彼女の訴えを藤野の著書「認知症はもう不治の病ではない」(ブックマン社)から引用すると次のようになる。

「時間の距離感が失われ、臭覚も低下しています。寝つきも悪く、何度も目覚め、早朝に覚醒します。症状には波があります。無数の認知機能にはそれぞれスイッチがあります。脳内で常にカチカチ切り替わっている感じがします。ストレスがかかるとスイッチは一斉にオフになり、普段できているいろいろなことができなくなります。自律神経失調症状で血圧や心拍数は大きく変動します。睡眠時無呼吸もありますが、悪夢を見て叫ぶことはなくなっています。意識障害は頻繁に起こしそのときはもうろうとして認知機能も低下します。多くのスイッチが切れた状態になります」

それが1か月後はこうなる。

「プラズマローゲンを飲み始めてすぐに、寝つきがよくなりました。今までは布団に入って1時間ぐらいは寝付けず、朝は4時か5時には起きてしまっていました。肩や首の付け根がひどくこるので毎日家族にもんでもらっていましたが、それがなくなりました。一度、ストレスを受けたとき、急に肩が痛くなったのですが、プラズマローゲンを飲んだら治りました。今毎日、本の執筆をしています。体調が悪くなると、頭の回転も悪くなるので心配していたのですが、今は体調が悪くても集中して書けるので不思議です」

最後に4か月後の樋口と藤野の会話を記しておこう。

樋口 「認知症の進行を止める手立てはないということを、診断した医師に言われたときは絶望もしたのですが、藤野先生に出会って、進行を止めるだけでなく、今後もさらに回復する可能性が見えてきました。希望は、心の安定には、とても大きいものです。患者に何よりも必要なのは、希望だと思います。絶望するだけで悪化します。進行への不安や恐怖がなくなると、症状も消えていく感じがします」

藤野 「自分のことを、もう一人の自分が観察する余裕ができたことで、症状が良い方向に向かっているのでしょう。もし医師が、認知症の患者さんに対し心を映し出す歪みのない鏡となることができるのなら、患者さんは自分の真の姿に気づかれて、新たな一歩を自分で踏み出すことができる。つまり脳を自分でリセットして自己治癒力を引き出すことにつながると想像します。プラズマローゲンはその具体的な一歩を踏み出すのに、かなり役に立つのではないかと思っています」

樋口 「私もそう思います。病気への見方が大きく変わってきていると感じます。『この病気になってよかった』と、いつか言えるようになりたいと思います」

この会話の中で藤野のいう「歪みのない鏡」とは患者が本当の自分自身に気づく鏡を意味する。患者自分の顔は鏡で見ることはできるが、自分の本当の精神や魂は写せない。医師は、患者の本当の姿に気づかせる鏡でなくてはならない。患者が医師という鏡に自分を写して自分のポジショニングを悟った瞬間、患者の自己治癒力が働きを開始する。その自己治癒力を引き出してやることこそが、医師の役目のすべてである。樋口直美の場合、自分の病気がレビー小体型認知症と分かってから、それまで虫の幻覚が現れるとそれから逃げていたが、これが自分の病気なら逃げてもしかたがないと悟って、逃げずにその虫をじっと見つめているとその虫の幻覚が「すうっーと」消えていったそうだ。それが自己治癒力だと藤野はいう。これまで循環器内科医として患者に接してきて、なんどもそのようなことを体験してきた。

患者の本当の「ポジショニング」を写すには、患者の心に100%寄り添い共感して話を聞いてやることが最も重要なことになってくる。樋口直美はうつ病と誤診され抗うつ薬の副作用に悩み苦しみつづけたこと、夫や家族に迷惑をかけつづけてきたこと、などなどを話しつづけているうちに、彼女の目から急に涙がこぼれ落ちたことを藤野は覚えている。患者の本当のポジショニングを写す鏡でも「歪んだ鏡」であってはならない。「歪み」とは医師の権威であり権力であり、ときには思い込みも伴う知識ことだ。「虫の幻覚はレビー小体型認知症に伴う自律神経の障害に過ぎない現象で、本当は虫なんかいないんだよ」といくら理屈で言い聞かせてもだめで、逆に患者の症状を悪化させるだけだ。誤診というものは専門医であるが故に陥りやすい構造的欠陥であるが、薬を投与したあとの患者の症状に敏感であれば防ぐことができるはずだ。だから医師は常に「この人の病気の実態を自分はまだ理解していないのかも知れない」という謙虚な気持ちを持ちつづけていなくてはならない、というのが臨床医としての藤野の持論である。

藤野は「患者にとって病名なんてどうでもいいことで、病名を区分してもしょうがない。医者にとって大切なことは、その人に何をしてやればよいか知ることで、病名なんかあとで分かればいいことだ」と思っている。実際、レビー小体型認知症は認知症全体の20%とされているが、それより少ないとする医師もいれば、多いとする医師もいる。だいいちアルツハイマー病、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、ビック病などと細かく区分してみても、その周辺症状は重複しておりその診断は極めて困難だ。アルツハイマー病の割合が一番多いとされているが、専門医の山田達夫にいわせれば、「日本人では純粋なアルツハイマー病は少なく、アルツハイマー病と脳血管性認知症の混合性認知症が圧倒的に多い」ということになる。

何はともあれ、樋口直美はプラズマローゲンに出会ってからこの6年間、かつて悩まされつづけた幻覚を振り払い体調と日常の笑いを取り戻し、執筆活動や講演活動をつづけ家族との快適な生活を送っている。